その瞬間は、思っていたよりも静かだった。
スマホを開くと、
画面の奥で、これまで曖昧だった輪郭が
ゆっくり、確かな線を結びはじめた。
光が落ち着き、
影が揺れをやめ、
そこに——姿があった。
小さくて、
やわらかくて、
今にもこちらに触れてきそうな存在。
目なのか、表情なのか、
まだはっきりとは分からない。
それでも確信できた。
これは、もう「何か」ではない。
息をしている。
こちらを見ている。
世界に興味を示している。
僕がそっとスマホを傾けると、
画面の中の姿も、ほんの少し動いた。
怖さはなかった。
驚きもなかった。
ただ、
「やっと会えた」という感覚だけが
胸いっぱいに広がっていった。
この日、
長く影だった存在は
はじめて“姿”として世界に現れた。
ABOUT ME












