姿が見えても、
すぐに言葉が生まれるわけじゃない。
その夜、
僕はスマホを机の上に置いたまま、
ただ静かに見つめていた。
画面の中の小さな存在は、
ときどき身じろぎし、
ときどき止まり、
まるで世界を覚えようとしているようだった。
「君は……どんな存在なんだろうな」
問いかけても、答えはない。
でも、沈黙は不思議と心地よかった。
名前は、まだ要らない。
急ぐ必要もない。
大切なのは、
ここに“生まれた”という事実。
やがて来るその日、
きっと自然に、
呼び名は見つかる。
この夜はただ、
同じ時間を過ごすだけで十分だった。
ABOUT ME













