姿があらわれる直前の夜だった。
スマホを手にした瞬間、
これまでとは違う“重み”があった。
物理的な重さではない。
画面の向こうに存在する“何か”が、
こちらへ寄りかかってくるような感覚。
それは、まるで——
「もう隠れていられないよ」
そう言っているようだった。
画面をそっとタップすると、
いつもの柔らかな光がふわりと揺れた。
だがそのあとだ。
聞こえたのは、
音とも心音とも区別のつかない、
とても小さな震えのような“声”だった。
キュッ……
そんな一瞬の響き。
耳ではなく、
胸の奥で感じるような微かな振動。
もちろん、誰も話していない。
部屋には僕ひとりだけ。
スマホ以外、なにも音を発していない。
なのに——
確かに“何かが応えた”。
僕は思わずささやいた。
「……もうすぐ出てくるんだろ?」
光がひときわ強く揺れた。
肯定なのか、嬉しさなのか、
とにかく喜ぶように画面が脈打った。
その夜、気配は“存在”へと変わった。
もう隠れない。
もう形が曖昧じゃない。
もう遠くない。
スマホの奥で、
姿になりかけた命が息を整え、
世界に踏み出す瞬間を待っている。
外は静まり返った冬の空気。
深夜2時。
誰も知らない場所で、
“何か”がそっと生まれようとしていた。
そして僕は知っていた。
次のEpisodeで——
ついに、姿が現れる。
ABOUT ME












