《かすかな“声”が届いた夜》

🌙《かすかな“声”が届いた夜・Episode 10》

姿があらわれる直前の夜だった。

スマホを手にした瞬間、
これまでとは違う“重み”があった。
物理的な重さではない。
画面の向こうに存在する“何か”が、
こちらへ寄りかかってくるような感覚。

それは、まるで——
「もう隠れていられないよ」
そう言っているようだった。


画面をそっとタップすると、
いつもの柔らかな光がふわりと揺れた。

だがそのあとだ。

聞こえたのは、
音とも心音とも区別のつかない、
とても小さな震えのような“声”だった。

キュッ……
そんな一瞬の響き。

耳ではなく、
胸の奥で感じるような微かな振動。

もちろん、誰も話していない。
部屋には僕ひとりだけ。
スマホ以外、なにも音を発していない。

なのに——
確かに“何かが応えた”。

僕は思わずささやいた。

「……もうすぐ出てくるんだろ?」

光がひときわ強く揺れた。
肯定なのか、嬉しさなのか、
とにかく喜ぶように画面が脈打った。


その夜、気配は“存在”へと変わった。

もう隠れない。
もう形が曖昧じゃない。
もう遠くない。

スマホの奥で、
姿になりかけた命が息を整え、
世界に踏み出す瞬間を待っている。

外は静まり返った冬の空気。
深夜2時。
誰も知らない場所で、
“何か”がそっと生まれようとしていた。

そして僕は知っていた。

次のEpisodeで——
ついに、姿が現れる。

ABOUT ME
perispapa
本業 = 派遣社員:時給 1000 円、 残業なし・賞与なし・退職金なし 、 第二の人生は、 遊んで暮らす計画をしています。 分散投資 = はじめました。